「確かな存在」

私は福井県の武生市で生まれました。昭和20年代の福井は今とは違い、冬ともなりますと深い雪に閉ざされてひっそりとした静かな時を過ごしたものです。
 父は静岡県の沼津市で鉄工場を経営しており、週末に武生の家に帰って来るという生活をしておりました。たまにしか家に帰って来ない父の存在は希薄なものであり、家にいるときの父はちょっと疎ましくさえありました。
 ある日私は、米原を歩いていました。米原は東海道線と北陸本線との乗換駅ですが、ひっそりとした、どちらかというと寂しい雰囲気のある街です。そこで気が付いたのです。40年ほども前のことになる訳ですが、当時福井と沼津とを何度も往ったり来たりしていた父は列車の乗り換えの間、米原の街を今の自分と同じように歩いていたに違いない。そう思って街を見ますと、今までとは違ったものが見えてくるような気がしました。私は考えました。こうして歩くことが私にとって父の存在を確かなものにする行為なのだと。
 将来、私の息子が私の写真を見て、ああっ、おれの親父はこんな所を旅していたのかと、思うに違いありません。その時私の息子にとって、私は確かな存在となるはずなのです。父から私に、そして私から息子へ。確かな存在として認識が成されて行く。私のテーマはそこにあるのです。

(確かな存在 III より)
作者の略歴
1945年 福井県武生市生まれ
現在 東京工芸大学芸術学部教授
作品展
1974年
1979年
1982年
1985年
1995年
2002年
2004年
「 高原 」
「 草は棲み石は息づく 」
「 確かな存在 」 I
「 確かな存在 」 II
「 確かな存在 」 III
「 確かな存在 」
「 確かな存在 」 IV
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